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2016年3月 7日 (月)

あの空にも悲しみが

空を見上げると、きれいにすみわたっていました。
ひとつの雲もありません。ぼくらの家族も、
あの空のように、すみきっていたら、
どんなに、すばらしいことでしょう。
すみきった、あの空にも悲しみがあるのでしょうか。

日本では、1964年東京オリンピックの時代。

韓国の大邱市にすむユンボギ少年は小学4年生、
失業中で半病人のお父さんと幼い弟妹3人とともに
赤貧洗うがごとき生活にあえいでいます。

お父さんの暴力にたえられず逃げてしまったお母さん
を慕いながら、
チューインガム売りやくつみがき、物乞いで
わずかな日銭をかせぎつつ、けなげに生きるユンボギ。

貧しさに耐えかねて、上の妹のスンナも書置きを残して家をでてしまう。

「お金をたくさんもうけて、家に帰ってきます。
 スンナをさがさないでください」

 (10歳になるかならずやの幼い女の子が・・・)

・・・小学校時代にはじめてちらっと読んだときは、
たしか『全国優良指定図書』かなにかで、
いつの時代のどこの国のお話かもわからず読み始めたのですが
涙がとまりませんでした。

ユンボギがかわいそうなのはもちろん、

悲しみを強調するような硬質な挿絵の雰囲気があいまって、
よくわからないなりに

「まずしさ」ということへの、恐怖感が強かったのでしょうか。

ユンボギの日記』が書かれたのは63年6月から64年1月まで、
64年に出版されて大ベストセラーとなり、
65年に日本語訳されてこちらも100刷を数えるロングセラーになったそうです。

日本語版翻訳者の塚本勲先生は63年に韓国を旅行して
戦後まもない日本のような貧しさ、都市部の繁華街にガム売りの少年たちがあふれている
のに強烈な印象うけ、(どこかで実際のユンボギと会っていたかもしれない)
にもかかわらず、ユンボギことイー・ユンボック氏(1990年に40歳にもならない若さで逝去)
とその生前ついに語り合うことがかなわなかったことを惜しんでおられます。

ユンボック氏の他界後、
長く絶版になっていた『ユンボギの日記』は
遺されたお子さんが著作権の権利者となり
2004年復刊、2006年に塚本勲先生の日本語訳も復刊しました。

著者同様、数奇な運命をたどった手記。

が、くもりなき子供の眼で時代を証言する一冊、
また児童の生活史としても貴重な、
希少な文化遺産として、ぜひ後世に残してほしい本です。

20160321081150.jpg

左から、復刊されたユンボギの日記、『あの空にも悲しみが
続編にあたる『ユンボギの詩 あの空にこの便りを
幼少期から、成長してからのユンボック氏の生涯を俯瞰した『ユンボギが逝って
図書館で借りてきました。

食うや食わずの貧困のなかでも
純な心を失わず、お父さんお母さんや弟妹を思い、
乳幼児をかかえたホームレス然とした女性に
行方不明のお母さんを重ねて気遣い、
拠り所ない徘徊老人には
ガムを売ったわずかな実入りのいくばくかでも
恵んであげずにいられない、心優しいユンボギ。

くつみがきでかせごうとして、
お父さんが作ってくれたくつみがきの道具を
縄張り争いで獲られてしまったり、
実入りを盗る目的で年上の少年に襲われて怪我したり、
つらいことばかりなのですが、

気持ちがすさんで
不良の悪い仲間に加わっても
責められない境遇なのに

人を恨んだり誰かのせいにするのではなく
素直で前向きな気高い心を失わない
この品格がどこからくるのか、

ユンボギに日記を書くことをすすめ
ノートや筆記具を与えて励まし続けた
クラス担任のユ・ヨンジャ先生、

ユンボギの境遇を知り
ユ・ヨンジャ先生とは異なる視点から
救援の手をさしのべた
キム・ドンシク先生
やその友人の
パクおじさん
(文筆家で、新聞記事にユンボギがとりあげられたことから
日記の出版が決まりベストセラーになった)、

学友や近所の人々
の支えや励ましもあったでしょうが、
やはり

生来そなわっている高貴な気質としか考えられません。

まったく余談ですが、かつて
その凶悪さと惨さで世間を震撼させた未曾有の未成年犯罪

綾瀬コンクリ殺人事件』、

あまりの非道さに当時は新聞社や出版社、コメンテーターの報道も錯乱した感があり、

他にいいようがないためか「世の中が悪いせいでこんな事件が起こる」的な
説得力ない論調が目立ちましたが

反発する読者の投稿(事件特集した『サンデー毎日』に寄せられた読者の感想のひとつだったとうろおぼえ)が強烈に記憶に残っています。

たぶん、犯人たちとさして年齢も変わらないような
当時20代とおぼしき若いかたの寄稿だったと思いますが

「・・・貴誌は、この外道どもの弁護士か?
『社会が悪い』とは、一部諸外国のように
親の庇護なく学校も通えず、職も金もない、
だから自分が生きるために盗み、人身売買、犯罪にそまる、
そういうのを『社会が悪い』というんだ。」

・・・当時まだ若かった(苦笑)私も、大いに共感しました
(まだ、ネットは普及していなかった)。

そしてこれらは過去のことではなく、
現在も
世界各地のストリートチルドレンや
半島地域ではコッチェビと称される乞食稼業で口に糊する子、
飢餓にあえいだり搾取にくるしむ
不幸な子供の問題は世界にまたがっています。

ユンボギ少年の境遇もその一端であり、

比較(にもなりませんが)すれば

少年法うんぬんする
現在のわが国の加害者・犯罪者擁護ととれなくもない

人権派の題目・論調が
なんと生ぬるく、一蹴されてけしとんでしまうことか。

実際に現場に関わっているかたには、どうか
本当に「救援すべき」存在
を正しく判断する眼をやしなっていただきたいですね。


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