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2016年8月13日 (土)

『少年倶楽部のなぞ』シリーズ平和の風3

1_2表紙帯より、

昭和12年、後楽園球場での「巨人対阪神」戦を親友の喜多さんと観戦しにいった

八二(はちじ)は、ぐうぜんにも『少年倶楽部12月号』を手に入れる。

喜びもつかのま、その『少倶』には、暗号文のような書き込みがしてあった。

それはいったい何を意味するのか・・・・そして、特高警察までが、

八二と喜多さんをつけねらってきた・・・。

戦争の時代を生きた、川柳人の姿をえがく創作文学。

川柳作家、鶴彬。本名・喜多一二(きた・かつじ)。

反戦川柳作家として活躍し、若くして亡くなったこのかたを

この本をみるまで存じませんでした。

反戦川柳作家・鶴彬

川柳で侵略戦争と戦った若者、鶴彬

反戦川柳作家 鶴彬の生涯

作者の吉橋通夫さんは児童文学部門で活躍しておられますが、

大人向けに鶴彬の伝記小説も執筆されているのでこちらもいつか読んでみたいです。

野球好きな小学生の八二(はちじ)少年。

家が材木屋を営んでいるために、ひんぱんに出入りする「木材通信社」の編集者・喜多さん

と仲良し。

喜多さんは28歳、目元すずしい二枚目だがいつもお金に困っている。

文学に造詣が深く、キャッチボールの相手だけでなく

八二少年に川柳のおもしろさを指南してくれる。

3八二少年が後楽園球場のトイレでみつけた『少年倶楽部』。

じつは忘れ物と見せかけて、「二十面相」が同志にわたすためにわざとおかれたものだった。

本文中には、えんぴつで暗号文のようなしるしがつけられていて・・・

4喜多さんは、『二十面相』に心当たりがあるらしい。

「何者なの?」

「正義の味方だ」

「正義の味方が、どうして警察に追いかけられるのさ」

「正義の味方だから、追いかけられるんだよ」

2気がつけば

見えるところ見えないところ、『二十面相』をマークしているらしき

特高警察の目が光っている。

検挙歴のある喜多さんもまた特高にリストアップされている要注意人物

とうすうす知り、緊張する八二少年。

ふたり、なにくわぬ顔で駅のホームで電車を待っていると、

横須賀海兵団の水兵が、八二少年の手にした『少倶』をじっと見ている。

・・・尾行をまきまき、市電で喜多さんが知っているという『二十面相』の家に向かうふたり。

5いろんな人が行き交う、東京駅。

工場で酷使され、身体をこわして郷里に帰る若い娘さんの姿に

喜多さんは社会悪への怒りを燃やす。

ふるさとは病いといっしょに帰るとこ

 

もう綿くずも吸えない肺でくびになる

「あんな若いむすめさんを、ボロボロになるまでこきつかって、

大もうけしている資本家のブタどもめが・・・」

喜多さんの、こんなこわい顔を初めて見た。

八重洲口で、赤ちゃんをせおったお母さんが

通り過ぎる人々に千人針をたのんでいる。

ベンチでぽつねんと、歌をくちずさむ傷痍軍人。

万歳とあげていった手を大陸へおいて来た

 

手と足をもいだ丸太にしてかえし

 

(・・・時代に匕首をつきつけるかのごとく、鋭い句。)

ようやく目的地とおぼしき家にたどりついたものの、

家の前には先回りした特高が・・・。

みずから喜多さんのつかいをかってでる八二少年、

なにくわぬ顔で特高の前をとおりすぎ、家宅訪問。

喜多さんにいわれたとおり、

「鶴さんの使いで来ました・・・」

と呼びかけると、かいがいしくむかえてくれた宅のおばさん、

案内された部屋には、なんと見覚えある水兵が・・・

「川柳作家の鶴彬というお名前、ごぞんじでしょう」

「はい、するどい人ですね。

『屍しかばねのいないニュース映画でいさましい』

という句など、戦争のみにくさにフタをする報道の役割を、みごとにあばいていますよ。

機会があれば、一度会ってみたいものです」

「この少年は、彼の使いで来たのですよ」

「奥さん、なぞがとけました。鶴彬氏が、あの雑誌をみて、わたしたちの連絡文書

だと気づき、それでこの少年をよこしたのですよね。これは、まれにみる幸運だ」

水兵に市電までおくってもらう帰途、待ち伏せていた特高に襲われるも

間一髪、水兵が返り討ちしてことなきをえる。

「二十面相さんやみなさんは、何をしている人たちなんですか」

水兵さんがニコッとわらった。

「天皇の命令にそむく国賊さ。では、鶴彬氏によろしく」

・・・はからずも、第二次大戦前夜の反戦レジスタンス?

の地下活動をかいまみた八二少年。

が、もちろんそのまますまされるはずもなく、翌日

木材通信社に警察がおしかけ、喜多さんは逮捕。

拘置中に発病し赤痢で入院した死の間際の喜多さんに、

10分だけ見舞いにゆくことができた八二少年は、最後の句を託される。



暁を抱いて闇にいる蕾

「たとえむしりとられても、つぼみは、また必ず芽を出すだろう。

そして、ふくらみつづけて、いつの日か花ひらくものさ。

君も、大きくなったら、そんなつぼみのひとつになってほしいな」

暁を・・・

は時代を越えてみる者の心ゆさぶる名作です

が、

本作はくもりなき子供の目で暗い時代の側面をきりとった反戦作品なのでしょうが

物語としては成功作とは思えません。

『二十面相』がだれで何者なのか、

同じくおばさんや水兵は何者か、鶴彬とどう接点があるのか、

なにを活動してるのか、

ほのめかすだけで、すべて謎のまま。

1991年、汐文社刊ですが

今後復刊されたときには、

戦後おとなになった八二少年が彼らと再会して

なにもかも解明される後日談を付け加えてほしいです。

あと、細かいことなのですが

小学生の八二少年がつめえりの通学服なのがちょっと気になります。

昭和戦前の学生服は

小学生は折れた衿、中学からは詰襟。

だったような。

もちろん、小学生のつめえりがなかったとはいいきれませんが

(学習院初等科は紺のつめえりでボタンのみえない比翼仕立て)、

昭和日常博物館

ほかならぬ『少年倶楽部』

昭和8(1933)年発行復刻版表紙。

えり付きの通学服を着た小学生、

こちらは昭和16(1941)年5月号表紙。

真珠湾攻撃の半年ほど前、

すでに国民服統制令がでていた頃?

小学校の名称は国民学校で児童は少国民、

白い衿の通学服は

『はだしのゲン』も着てましたね。

そういえば、『おそ松くん』も・・・

小学校の通学服は、戦後の昭和30年代まで、残っている地域があったのだそうです。

だいぶ脱線してしまいましたが、

歴史の闇に惜しくものみこまれた逸材の、鶴彬もそのおひとりですね。

戦争や戦時下の悲劇は、多種多様な人材の消耗損失だと痛感せざるを得ません。

とはいえその精神は朽ちることなく珠玉の作品にとどまり、

永遠の感動をよぶことに心うたれます。


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