BBCのドラマ『テス』。
わが国では『テス』
で知られるハーディーの傑作『ダーバヴィル家のテス』。
1979年製作のポランスキー監督ナスターシャ・キンスキー主演の映画はあまりにも有名ですね。
2008年BBC製作のドラマ『テス』
をアマゾンプライムのネット配信で視聴できました。
とても原作に近い『テス』の再現かも。
『テス』に扮するのはきれいな女優さんなのに、
もっさりした野暮ったい田舎娘の雰囲気
(あえてそう演出しているのでしょうが)、
高画質なせいか主演俳優さんたちの顔のそばかすまでくっきり映っている、
キャラクターに生気もたせるリアリズムでしょうかね。
マーロットはじめ英国の田舎の田園風景はとても美しいのに
農家の内部はうす暗く、生活の厳しさと貧しさがつたわってくる感じ、
お父さんはしがない行商人で
とても貧しい暮らしにもかかわらず
名家の末裔と判明したことで、テスの悲劇の幕がきっておとされます。
『テス』(BBCドラマ)
『テス』ネタバレあらすじと感想
原作には『清純な女性』と副題ついていますが
さもありなん。
テスはあまりに
外見のみか心も美しく、美しすぎることが不幸の元凶となった。
ピュアすぎる美点は逆に彼女のかたくなさ、因習にとらわれすぎる
欠点ともなり、モラルにこだわることが彼女自身を縛り付け苦しめる。
(なんで、そこまで罪悪感
感じなくていいのに、テスは被害者なのに)
と、ゆるい現代人は思ってしまうのですが。
では、どうすればよかったのか
というと・・・正解出ないまでもあれこれ考えたくなります。
テスの両親は賢い人たちとはいえませんが、それでも
お母さんが結婚直前によこした忠告
(幸せになるために過去の不幸な出来事は決してうちあけてはいけません)
は妥当ではないかと思ったり。
結婚する時点では、エンジェルは新妻とともに新天地にわたり
農場経営する計画だったわけで
英国を遠く離れた南米や植民地では
誰も彼女の過去など云々しないし、
かんたんに幸せが掴めたかもしれないのに。
なあなあですませず、愛する人に過去のあやまちを逐一告白して
許しをえるまで救われない
と罪の意識にとらわれ続けるのがテスのピュアハートな所以なのですが(悲)。
ストーリーのラスト近く、
改悛した夫が迎えに来るのが遅すぎて、
アレック・ダーバヴィルのお妾にされているテスとの再会。
悲しい一瞬の再会と永遠の別れ(ストーリーの進行は、結果としてその通りなのですが)
と思いきや一転してサスペンス調。
愛する男のために世話になってるパトロンをころす、
これも純真で一途な女性なる所以??
(なにもころすことなかったのに、どうせ逃避行するなら
貢がれたものやお金ありったけ持って二人で逃げればよかったのに)
とつい、勝手なこと考えてしまいますが
それをやってしまうと「清純な女性」でなくなってしまう、やれ困った。
この逃避行も、どうせならその日のうちに海を渡って
フランスかアイルランドに高とびすればいいものを、
快適な無人の貸別荘に数日逗留したりして、
ほんとに逃げる気あるの??
なもどかしさ。
すでに処刑される覚悟を決めているテスとしては、
明日のない愛であってもすこしでも堪能したい一途さなのでしょうが
逆らわずに引きずられるエンジェルはどうにもだらしない、
なんでまた
こんな度量も器もない
世間知らずの頼りないぼんぼん
をテスがひたむきに命がけで愛するのか、よくわかりませんでしたが
はたと思い当たりました。
あまりにも純粋で潔癖で、曲がったことに耐えられない
直情的な気質過ぎて
ときに無鉄砲で刹那的で無計画
な共通項、ふたりは似た者同士で惹かれあうのでしょうか。
ついでに言うと、アレック役の俳優さん、
サイコでモラハラ、粘着質な雰囲気が出ていて
上手いなあと思いました😃。
道楽息子で放蕩青年であれ、
資産家で二枚目で教養もあり
原作読んでいるだけでは
貧しい田舎娘のテスが
なぜ彼をけぎらいするのかわかりませんでしたが、
(これじゃあ潔癖な若い女の子は嫌悪感もつだろう)
と納得のきもちわるさ(ごめんなさい😅)。
終章のクライマックスで、
悲しみに打ち沈むテスが思わずナイフでやってしまうのも、
それまで溜まりに溜まった鬱屈があったんだろうな
(わざと彼女が嫌がることをいったりやったりして、苦しむさまを
みてたのしんでいたとか??)
と、推測。
テスなきあと、エンジェルがどうなったかも気になる、
テスの希望どおり
テスの妹のライザ・ルーと結婚して幸せにくらした
・・・とは、どうも思えない😢、
お父さんが亡くなって村を追われてから
美人の長女を地主の若旦那のおめかけにさしだすことで
生活している一家、
あろうことかその若旦那をころしてしまい
処刑された娘
の家族となれば、田舎で今まで以上に後ろ指さされる
つらい現実がふりかかってくるであろうに
この頼りなげなぼんぼんが全てひきうけて面倒見る
(まがりなりにもころされたアレック・ダーバヴィルは実践していた)
可能性はうすいような・・・(悲)。
結局背負うものの重さにたえられずまたどこか遠方に
(アフリカか、オーストラリアかわかりませんが)逃亡しそうな気がする。
と、勝手な妄想かきたてる俳優さんのキャスティングと演技はうまい、
このエンジェル役の俳優さんに、『マノン・レスコー』の
デ・グリュー役をやってもらいたいほどです💗。
あと、ポランスキーの映画をみていたときは気づかなかったのですが
この原作に忠実なBBC版『テス』を観賞していると、
原作者のキリスト教世界観への皮肉がすごいなと思いました😵。
テスが苦しむのも信仰心からくる罪悪感、
アレックに手込めにされて産んだ赤ちゃんは私生児という理由で
洗礼もうけられず、そのまま亡くなってしまい、
正式なお墓さえ建ててやれないことでテスを悲しみのどん底へつきおとす。
そのテスが愛したのはぐうぜんにも牧師の息子、
進歩的で信心にとらわれない革新的な青年と思いきや
妻にうちあけられた過去を受容できない包容力ない男。
過去の不品行を恥じて一時は聖職者修行していたはずのアレックは
テスと再会するやいなや元のいかがわしい人物にもどってしまう。
・・・作者はキリスト教にうらみでもあるのかと
かんぐってしまいそうなオンパレード(悲)。
オープニングで
テスとエンジェルがお互いを見初める村の踊り
は、先史時代のケルトの祭り、
ラストでテスが最期の輝かしい朝を迎えるストーンヘンジも
キリスト教以前の古代遺跡。
暗示的だなあ。
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